大判例

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大阪高等裁判所 昭和53年(う)443号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

刑務所服役中に知り合つた被告人両名が、勤務する会社の当座預金から大金を入手する目的で、上司である会社幹部二人がこれを持ち逃げしたように装うために、右二名を絞殺したうえ造成中の埋立地に死体を埋めて失踪を装つた殺人・死体遺棄事件

【説明】

刑事裁判の実務では、死刑の適用は特に慎重になされているところ、本件の二事例は、死刑の一審判決に対し、詳細な理由を付した上、一は破棄して無期懲役とし、他は控訴棄却したもので、死刑と無期懲役の限界を考えるに当たり、参考になると思われる。

【判旨】

弁護人真鍋正一の控訴趣意第三点、弁護人東畠敏明の控訴趣意第六点、並びに被告人両名の各控訴趣意中その余の主張について

各論旨は、いずれも量刑不当を主張するので、各所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実の取調べの結果をも参酌して、以下に原判決の量刑の当否について検討を加える。

まず、被告人双方に共通し、かつ各論旨の中心をなす所論は、相互に相被告人をもつて本件の主犯であるとし、幇助的な立場で本件犯行に関与したにすぎない被告人に対して極刑を言い渡した原判決の量刑は重過ぎるというものである。しかしながら、既に認定したとおり、被告人両名は、それぞれ独自の動機をもち、共通した物欲を満たすため、相協力して本件犯行を遂行したものと認められ、原判決がその「量刑の理由」中において、「本件犯行全体の追行においては、被告人らのいずれを主とし、いずれを従とする関係にあつたとはいい難い。」と判示しているところに、所論のような誤りがあるとは認められない。なるほど、本件犯行計画を最初に考え出し、かつこれを具体化するための筋書を立案したのは被告人出口であり、この点で同被告人が主導的立場にあつたことは明らかであるが、被告人坂口も、右犯行計画が成功する見込みがあり、これによつて当面の金銭の必要も満たされると考えて本件犯行に加わるに至つたものであることは、原判決の認定するとおりであると認められる。そこで、右犯行計画の内容をみるに、予め曜日をもつて特定した犯行の順序にしたがつて、まず被告人出口が適当な口実を設けて被害者を被告人坂口の運転する自動車に誘い込み、右自動車で予定の殺害現場に赴いたうえ、被告人坂口が自動車を止めるのを合図に、被告人出口が後部座席から助手席の被害者の頸部をひもで絞め、被告人坂口が適宜被害者の身体を押えつけるなどの協力をして被害者を殺害し、次いでその死体を右自動車のトランクに隠匿し被告人坂口がこれを他の場所へ運搬して発見されないように処分し、小切手用紙の窃取とこれを用いて大阪電解株式会社の当座預金から多額の現金を引き出す行為は被告人出口が担当するというもので、被告人両名がそれぞれその犯行の重要な部分を分担して、相互に緊密な連係を保ちながら相協力して本件犯行を遂行することが予定されていたのであるから、被告人両名は、本件犯行をいわゆる完全犯罪として遂行することにつき、いずれ劣らぬ利害と関心を有していたことは明らかであり、被告人出口は、被告人坂口からどのように催促されようとも、殺人行為を伴う右犯行計画が蹉跌を来たさない見極めとこれを実行する意欲がなければ、その計画を実行に移すはずがなく、また被告人坂口は、右犯行計画が被告人出口の勤務する大阪電解株式会社を舞台にするものであつたことから、その犯行計画の具体的な筋書の立案を同被告人にゆだねることとなつたものの、その立案をさらに完全なものにするために、自らも積極的な協力を措しまない態度に出たはずであり、このことは原判決挙示の関係証拠によつて十分に裏付けられるところであつて、この点につき互いに自己の関与が消極的であつたとしてその責任のより軽度であることを主張する被告人両名の各所論は、いずれも採用しがたいものというほかない。さらに、本件犯行計画の内容も、右に述べたとおり、被告人両名の緊密な協力関係がなければ到底実現不可能なものであつたことに徴すると、本件犯行は、被告人両名の共同犯行として、その計画を具体化し完成する過程においても、またその計画を実現する実行行為の過程においても、被告人両名が相より相たすけてその推進を計つたものというべきであつて、たしかに被告人出口は、右計画の立案にあたつて常に主導的な立場にあり、本件各殺人の実行行為に際しても直接絞殺行為を担当するなどの重要な役割を果していて、同被告人の罪責が極めて重大であることは改めていうまでもないところであるが、一方被告人坂口も、事前共謀の段階から各殺人及び死体遺棄の実行行為に至るまで終始積極的に本件犯行に関与し、ことに瀧井専務の殺害を手段とする原判示第二の犯行が失敗に終つたあと、金銭の必要に駆られて、宮崎課長の殺害を手段とする原判示第三の犯行の計画と実行を再三被告人出口に促してその推進を図つているうえ、被告人坂口が担当した各死体遺棄の行為は、本件犯行がいわゆる完全犯罪を目的としている以上、単なる死体の始末というようなものに止まらず、本件犯行の発覚を防止するための決め手となる行為として、その犯行全体に占める意味も極めて重要なものであると評価しなければならないことに徴すると、本件犯行を全体としてみるかぎり、被告人両名の責任の程度に決定的な差等を設けなければならないほど明確な軽重の差を見出すことは困難であるといわなければならない。そこで、すすんで、本件犯行の罪質、動機、態様、被害の程度、犯行後の状況、被告人両名の経歴、性格などの諸事情について検討するに、原判決もその「量刑の理由」欄において説示するように、(一)本件犯行は、刑務所で服役中知り合つた被告人両名が、大金を手に入れて当面の金銭の必要を満たし、或いは将来安楽な生活をしたいという甚だ身勝手な欲望を満すため、一獲千金の野望を抱き、その手段として、何の罪も落度もない、むしろ被告人出口にとつて恩義こそ感ずべき上司である被害者二名を順次殺害したものであつて、犯行の動機に全く酌量の余地はないばかりか、物欲のためにあえて殺人をも辞さない被告人両名の冷酷で非人間的な発想は、まことに心胆寒からしむるものがあること、(二)被告人両名は、本件犯行を企図するや、被害者らの直属の部下である被告人出口が仮りに後日その犯行の嫌疑を受けて逮捕されるようなことがあつても、被害者らの死体さえ発見されなければ、捜査機関に確証をつかまれることなく、嫌疑不十分で釈放に持ち込めるとの目算のもとに、いわゆる完全犯罪を目指して事前に相談を重ね、綿密な犯行日程を立ててその犯罪を遂行するための詳細な手順を取り決めたうえ、殺害場所などの下見分をし、さらに宮崎課長に対する犯行に際しては発覚防止のために偽装工作を打ち合わせるなど、周到な準備と計画のもとに、冷静かつ機敏に本件犯行に及んでいること、(三)その犯行は、右計画にしたがつて被告人両名の緊密な連係のもとに遂行され、被害者両名がいずれも部下の被告人出口を信頼して一片の疑いも抱いていないのにつけ込み、言葉巧みに自動車内に誘い込んで絞殺したもので、ことに瀧井専務を殺害した直後に右計画が挫折したのに殺人という大罪を犯したことへの悔悟や反省もなく、同専務の遺族の嘆きと心痛を目前にしながら、なおかつ自責の念にさいなまれることもなく、ひたすら大金を得たいという物欲に駆られてさらに以前にもました慎重な配慮を尽して宮崎課長の殺害を計画し、かつその実行に及んでいるのであつて、右各殺害後の死体処理の冷酷、無惨さとあいまつて、その犯行の手段、態様はまことに残酷非道というほかなく、利得のために人命を犠牲にしてはばからない被告人両名の本件各所為は、まさに強盗殺人に比すべき兇悪な犯行というべきであること、(四)本件犯行後その発覚に至るまでの被告人両名の行動には、重罪を犯したことへの自責の念にかられた形跡は殆んど窺われず、むしろ平然とした態度で、被害者両名の殺害には全く無関係であるかのように装つたうえ、罪証の隠滅を図るなどしており、被告人坂口がその後警察への出頭を考えるようになつたのは、先に逮捕された被告人出口の供述により自己が共犯者であることが発覚して、もはや警察の追及を逃れられないと考えたことによるもので、反省悔悟の結果とは認められず、結局警察に出頭する決意がつかぬまま逃げまわるうち、親許に立ち寄つたところを逮捕されるに至つたものであつて、被告人両名の犯行後の態度にも格別酌量すべき点が見当らないこと、(五)被害者両名は、それぞれ平和な家庭をもち、一家の経済的精神的支柱として善良な市民生活を営んできたもので、本件当時には勤務先においてもそれぞれ相当な地位を得て、さらに今後の平穏な生活を望みうる状況にあつたのに、ひたすら物欲にかられて人間的な心情を見失つた被告人両名の手により、思いもかけぬ非業の死を遂げるに至つたのであつて、被害者ら本人の無念さとその遺族らに与えた衝撃、痛恨は測り知れないものがあり、また本件犯行がひろく市民の耳目に衝撃を与えるなどその社会に及ぼした影響も無視できないこと、(六)被告人両名は、いずれも懲役刑により服役した前科を有しながら、更生のための地道な努力を怠り、一獲千金を夢みて事の重大さには全く思いを致さず、終始平然とした態度で本件犯行に臨んでいるのであつて、原判決も指摘するように、一度ならず二度までも同じ場所でかつ同じ手口で人の生命を犠牲に供してはばからなかつた被告人両名の心底に、このような重大犯罪を犯すことに対するためらいや悔恨の情という人間的な苦悩を味わつたあとが見受けられないことは遺憾の極みであるというほかなく、その犯行の過程を通じて被告人両名に顕著な反社会的性格が窺われること、などの諸事情が認められ、これらの事情に徴すると、本件犯行の罪質、態様は極めて悪質で、動機にも斟酌すべき点は見当らず、その結果は二人の貴重な人命を次々に奪うというまことに重大なものであるうえ、その遺体をあたかも無用な物体のごとく扱つて土中に埋没するという陰惨な行為にも及んでおり、その各所為のいかなる点をとつてみても、全く人倫に背いた到底許しがたい犯行というべきであつて、原判決が特に慎重な態度をもつて調査し認定しているところの被告人両名の生い立ち、環境、改悛の情などの諸事情、その他記録に現われた諸般の情状に、さらに当審における事実の取調べの結果によつて認められる原判決後の情状、すなわち、被告人出口は、どのような処罰をも甘受するとの心情を吐露し、また被告人坂口は、読経や写経を日課として被害者両名の冥福を房内から祈ることによつて、それぞれ自己の犯した罪の深さを悟り、反省の色を深めている状況が窺われることをも併せて、これらの情状を被告人両名に最大限に有利に斟酌し、かつ現行法上死刑制度が存置されているとはいえ、その適用は特に慎重でなければならないことを十分考慮しても、本件事案の重大性と被告人両名の罪の重さに思いを致すときは、被告人両名をそれぞれ死刑に処した原判決の量刑はいずれもやむをえないものというべきであつて、苛酷に過ぎるものとは考えられない。各論旨はいずれも理由がない。

(八木直道 井上清 谷村允裕)

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